はじめに
片頭痛でお悩みの皆さまにとって朗報です。
2025年9月、日本で経口の新規片頭痛薬「ナルティークOD錠75 mg(一般名:リメゲパント)」が 製造販売承認 を取得しました。12月16日より販売になります。
この薬は「発作時の治療」と「発作の予防(発症抑制)」の両方に使えるという、“二刀流”の特性を持っています。
本記事では、「ナルティークとは何か」「どんな人に期待できるのか」「既存薬との違いや注意点」を、脳神経内科医の視点でわかりやすく解説します。
ナルティークとは?――CGRP受容体拮抗薬の新星
✅ 作用機序
ナルティークの有効成分であるリメゲパントは、体内で片頭痛の発作に関与するとされる神経伝達物質 CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド) の受容体をブロックします。
通常、片頭痛発作時にはCGRPが過剰に放出され、血管の拡張や神経経路の興奮を引き起こすことで痛みや随伴症状をもたらすと考えられています。ナルティークはこの「CGRP → 受容体 → 痛み」の連鎖を遮断することで、発作の痛みを抑えると同時に、再発を防ぐ可能性を持つ薬です。
✅ 飲みやすさと利便性
- 経口薬(錠剤)であるため、注射に抵抗がある方や通院が難しい方にも使いやすい。
- 口腔内崩壊錠(OD錠)として設計され、水なしでも服用できるため、発作時の“吐き気・嘔吐”があるときでも比較的飲みやすい。
ナルティークの使い方:急性期治療と予防の両対応
| 用途 | 投与方法 |
|---|---|
| 発作時の治療 | 片頭痛発作が起きたときに リメゲパント 75 mg を1回服用 |
| 発作の予防(発症抑制) | 痛みのない時期でも 隔日(2日に1回)75 mg を服用 |
このように、発作が起きたときだけではなく、発作の頻度を減らすための“予防薬”としても使えることが、従来の多くの薬にはなかった大きな特徴です。
従来薬との違い ― ナルティークが特に有利な点
🔹 トリプタン系との違い
従来、片頭痛の急性期治療では主に「トリプタン系薬」が使われてきました。しかしトリプタンには以下のような制約がありました:
- 血管収縮作用があるため、心血管疾患や高血圧のある人には使いにくい
- 吐き気やめまいなど副作用が出ることもある
- 発作を繰り返す頻発型には薬だけでは不十分なことも
一方、ナルティークは 血管収縮作用が少ない とされ、これらの制約から解放される可能性があります。
🔹 注射系のCGRP製剤との違い
最近では、CGRPを標的とした注射薬(例:エムガルティ/アジョビ/アイモビーグ など)が予防薬として広く使われています。ただし、注射には以下のようなハードルがあります:
- 皮下注や点滴といった医療機関での手続きが必要
- 注射に抵抗がある人も多い
ナルティークは 経口薬である点が大きな強み。注射を避けたい人、通院が難しい人、高頻度で発作が起きやすい人などにとって、新たな選択肢となります。
どんな人に特に期待か?
ナルティークは、以下のような方に特に有望と考えられます:
- トリプタンを服用しても効果が不十分、または副作用が強かった人
- 注射のCGRP製剤に抵抗がある、または通院が困難な人
- 頭痛が頻繁に起きて、予防をしたい人
- 吐き気や嘔吐を伴いやすく、水なしの服用が便利な人
また、発作の頻度が多く生活の質が落ちている人、仕事や家庭の予定が立てづらい人などにとって、「飲み薬で発作予防」が可能になる点は、ライフスタイルの改善に大きな意味があります。
注意点・留意点 — 新薬ゆえの確認すべきこと
ただし、ナルティークも万能ではありません。以下のような注意点があります:
- まだ使用経験が浅いため、長期安全性 や 実臨床での継続効果 に関するデータはこれから蓄積される段階です。
- 全ての片頭痛患者が対象ではなく、診断基準を満たす必要があります。(例:典型的な片頭痛、前兆の有無などが判定の対象)
- 用法・用量を守ること(1日1回75 mg、予防では隔日投与など)
- 他の持病(肝機能、腎機能、心血管疾患など)がある場合は医師とよく相談を
医師または専門医と相談のうえ、適切なタイミングと方法で使用することが望ましいです。
まとめ:片頭痛治療における新しい時代の幕開け
ナルティークは、従来の「トリプタン系の発作治療薬」や「注射のCGRP製剤」に加えて、「飲み薬で発作治療と予防の両方を可能にする新しい選択肢」 を提供します。
片頭痛に長年苦しんできた方、注射に抵抗があった方、治療がうまくいっていなかった方にとって、この薬は大きな希望となる可能性があります。
もちろん「薬だけで完璧」というものではありません。生活習慣の改善、トリガーの管理、ストレス対策などとの併用が理想です。
しかし、医学が進歩し、「飲み薬で片頭痛管理」が現実になる――。それは、多くの患者さんにとって“頭痛の常識”を変える、新しい時代の始まりです。
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